7月4日のブログ「さまざまな涙 ~スポーツ大会~」で「涙」のことを話題にしましたが、「涙」という字は「氵」(さんずい)に「戻」(戸+大)と書きます。
といってもこれは新字体で、旧字体で「なみだ」は「さんずい」に「戸」と書いて、その下は「大」ではなく「犬」です。
「戻」(もどる)という字は、もともと「戸+犬」でできていて、「戸+大」は省略形なんですね。
「戻」を手持ちの漢和辞典で調べてみると、「漢辞海」(三省堂)には「説文、会意。曲がる。犬が戸の下から出るようすから構成される。」とあり、「新漢語林」(大修館)には「会意。戸+犬。戸口にいる犬の意味から、あらあらしい。もとるの意味を表す。『説文解字』では、戸の下から身をねじまげて出る犬の意味から、身をよじるの意味を表すと説く。」とあります。
「説文」とか「説文解字」(せつもんかいじ)というのは、後漢の時代に作られた中国の古い漢字の字書(辞書)です。「会意」というのは、漢字の構成法の一つで、二つ以上の漢字を組み合わせて新たな一字を作るという意味です。
どちらの辞典をみても、漢字そのものに「もどる」という意味はありません。「漢辞海」(三省堂)には、さらに「日本語用法」という項目があり、「もどる。もどす。元の状態に返る。返す。『戻』にそむく意のモトルの訓があるところから、逆に進む意のモドルに当てたものか。中世以降の用法。」という補足説明があります。
つまり、「戻」に「もどる、もどす」の意を持たせたのは日本独特であり、「漢字」といいながら中国には「もどる、もどす」という意味はないというのです。
読み書きを覚えるという学習だけでなく、その字をきちんと理解しようとすると、改めて漢字は難しいと感じます。
「畑、笹、峠、辻、枠」など、漢字だと思っていたら、実は「漢字」ではなく「国字」(日本で作られた字)であったり…。
別の言い方をすれば、漢字には奥深さがあるということにもなります。それは、本家の中国だけでなく、長い間、日本という別の国でも使われていたからです(朝鮮半島でも、長い間使われていました)。
本家の中国人にとっては、そんな複雑な話はどうでもいいと思うかもしれませんが、実はそんなに単純な話ではなく、「逆輸入」とも言えるようなことば(日本で定着した熟語が中国でも使われるようになったもの)もあるというのですから驚きですね。